ぐち(愚痴)。
上方端歌。本調子。作詞作曲不詳。
地歌には、二つの流れがあるといわれています。
当道職屋敷の中で、いわゆる検校(けんぎょう)や勾当(こうとう)などの資格を持った者によって作られた曲と、
自然発生的に、庶民の間で流行し広がった曲とがあるようです。
この後者の地歌を端歌系統のものと言い、一般に上方端歌(唄)と呼ばれています。
上方唄は、作者不詳の小曲が多く、『ぐち』もその一つです。
また、この曲を一層有名にしたのは、
「おまえの袖・・・」からの後半部分が“梅川忠兵衛”井筒屋の下座音楽として使われたからです。
哀愁漂う旋律が、心中へと追い詰められていく二人の心情とあいまってより舞台に情感を添えるのかも知れません。
その後半の唄・・・・
「おまえの袖とわしが袖 合わせて唄の四つの袖」
“四つの袖”とは、鶴山勾当の古曲『四つの袖』のことで、
当時の切ない恋の唄の代表格であったようです。
男と女が戯れてお互いの袖を重ねあう様子を描いた・・・四つの袖。
なんとも、情緒のあふれる表現です。
――― 路地の細道駒下駄の
胸おどろかす明けの鐘 ―――
駒下駄は、もとは雪の日や水を打った庭用の履物であったが、女性の履物に使用されるようになり、新吉原で角町菱屋の芙蓉が履き始めてから、遊女や玄人の女性の愛用するものとなったようです。
駒げたを履いて、細い路地を恋しい人のもとへ急ぐ様子
早くも明けの鐘が鳴って、胸驚かす様子を情緒豊かに謳いあげ、
どことなく哀愁が漂い、
艶やかな情感の余韻が残ります。
当流(山村流)では、ここで終わりますが・・・、
このあと、原曲ではつづきがあります。
参考までに・・・。
――― おまえのことが苦になって
二階住まいの恋じゃない ―――