この曲、越後獅子は、
先の考でも書いたように、
越後の国(現在の新潟地方)の蒲原郡中心の神社で行われた里神楽の獅子舞が、
京や大坂まで出て来て、
門付け芸人として町角で踊っていた越後獅子(角兵衛獅子)を題材としています。
曲の内容としては、
同地方の地名や数々の名物を掛詞で上手く合わせて、
情緒豊かに唄い綴られたひなびた風情のある作品です。
同名の作品が長唄にもありますが、
派手で写実的な長唄のものとは随分趣きが異なります。
角兵衛獅子の素朴な風物の味わいが、
地歌舞の技巧によって、
微妙に、しっとりと
そして、古風に表現されている点が特色であります。
作品としても
珍しく小道具を多く遣い、
また、起承転結の四つの変化がはっきりとしております。
まず、一文字笠を手に舞い始めたあと、
越後地方の風情の描写から 鞨鼓のくだりへとすすみ、
最後に手獅子をもってめでたく舞い納めるという
四段の構成から成っています。
地歌舞では、座敷舞として、
角兵衛獅子の心をお腹に入れながら、品良く舞わねばならないところが
難しくもあり見所ともなっています。
山村流では、
一人立ちの振りのほかに
二人立ち、また、群舞での振りが付けられております。
私といたしましては、
かつて、四世宗家も五世宗家も共に良く舞われていましたが、
ご一緒に舞台に立たれた二人立ちの印象が強く、
山村流にとっても大切な曲として、
心して舞わせていただく曲でございます。