『地歌 ゆき』によせて・・・

地歌「雪」

【地歌 ゆき】

 

座敷舞『舞華会』にて、若瑞が今回『ゆき』を舞わせていただきます。

『ゆき』は、地歌(舞)の中でも、もっとも有名な作品かもしれません。現に、ゆきが舞えるようになりたいから、細雪に描かれるゆきに憧れて習いたい!と、門をたたく方が少なくありません。

山村流においても、山村と言えば『ゆき』と、山村流の代名詞とも言え、とても大切に伝えられており、師匠名取の試験のひとつになっています。

十代には十代のゆき、二十代には二十代の雪、三十代には三十代の・・・というように、その歳その歳の『ゆき』を舞わなあかんと、云われています。と言うことは、『ゆき』に描かれている女性の性(さが)というものは、永遠のテーマなのかもしれません。

初代山村友五郎振付として伝えられているこの『ゆき』を舞うていつも思うことは、本当にきれいな振りが付けられているなあということです。先々代の宗家は、「ゆきは、曲も振りもええ!曲を聞いたら自然に振りが出てくるようにならなあかん!」と、言葉を残しています。

今回、若瑞は初めて『ゆき』に挑戦いたします。とはいえ、十代の時には、試験曲として一所懸命にお稽古をいたしました。まだまだゆきを舞うには早い・・・と思っていましたが、二十代には二十代のゆきが・・・を思い出し、この記念の座敷舞に『ゆき』を舞ったら・・・と思いました。ただし、今回は試験曲と同じ、ゆきの曲前半のみの上演となります。

『ゆきの合方』として知られる美しくも物哀しい旋律がつづき、余韻を残して前半は終わります。世俗を捨てて仏門に帰依した女性が、しんしんと降る雪音に・・・、夜半に鳴り響く鐘の音に・・・、思う人がもしやたずねてきたのではないかと、捨てたはずの未練の心に揺れ、苦しみます。それは、積もっては消え、消えては積もるゆきの有様に、女性の心情を重ねたように思えます。

その微妙な心根を、地歌舞特有の抑えた表現(型と振)で舞っていきます。いえ、地歌舞だからこそ表現できるのかもしれません。

まずは、伝えられてきた型に忠実に、美しい二十代のゆきを待ってもらいたいと願っています。

それでは、その美しい詞章をご紹介いたしましょう。

 

『地歌 ゆき』

 花も雪も 払へば清き 袂かな

 ほんに昔の 昔の事よ わが待つ人も(は)

 われを待ちけん

 鴛鴦(おし)の雄鳥(をとり)に 物思ひば(羽)の

 凍る衾(ふすま)に 鳴く音もさぞな

 さなきだに 心も遠き 夜半の鐘

 聞くも淋しき 独り寝の 枕に響く 霰(あられ)の音も

 もしやと いっそ堰きかねて

 落つる涙の 氷柱(つらゝ)より

 辛き命は 惜しからねども 恋しき人は 罪深く

 思はぬ  事の悲しさに

 捨てた浮き   捨てた憂き世の 山かずら

 

※写真は、能楽堂にて開催した『玉響の会』のゆきの舞台写真です。

 

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